社会にひろげる予防医療!

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超高齢社会の到来

国の統計によれば、日本の総人口に占める高齢者(65歳以上)の割合は27.4%※2と、国民の4人に1人が高齢者となっています。一般に、高齢者人口が7~14%の社会を「高齢化社会」、14~21%の社会を「高齢社会」、そして21%を超えると「超高齢社会」と呼んでいます※3が、日本は世界で最初に超高齢社会を迎えた国となりました。

加齢とともに健康に問題を抱える人が増え、病気やけがなどでなんらかの自覚症状のある人の割合(有訴者率)は、65歳以上の男性41.8%、女性46.9%にのぼります※4。加齢に伴う医療ニーズの増大は国民医療費に影響を及ぼし、65歳以上の高齢者で23兆9,000億円余りと、国民医療費の半分以上(58.6%)を占めているのが現状です※5

1965(昭和40)年当時の日本は、高齢者(65歳以上)1人を9.1人の現役世代(20~64歳)が支える胴上げ型社会でしたが、2012(平成24)年には高齢者1人を2.4人で支える騎馬戦型社会となり、今後の高齢化のさらなる進行により、2050年には高齢者1人をほぼ1人の現役世代が支える肩車型社会を迎えると予測されています(図2)※6。



OECD(経済協力開発機構)などの労働力調査によれば、日本の高齢者の労働力率(生産年齢人口に占める労働力人口の比率)は、欧米にくらべ高い水準にあります(図3)※7。ボランティア活動なども含め、高齢者、特に女性も積極的に社会参加を行い、生涯現役の高齢者が増えることが明るい日本社会の必要条件になりつつあるようです。



感染症から慢性疾患へ

1950(昭和25)年当時の日本人の死因は多い方から結核、脳卒中、肺炎の順でしたが、ライフスタイルの欧米化に伴って循環器疾患・がん・慢性呼吸器疾患・糖尿病などの非感染性疾患(NCD)※8が増加し、現在はがん、心臓病、肺炎の順となっています(図4)※9

* 非感染性疾患(NCD):一般に慢性疾患と呼ばれ、人から人への感染を経ず、長期にわたり病気が進行するタイプの疾患群。NCDの 主要疾患は、心臓発作や脳卒中などの循環器疾患、がん、COPDや喘息を含む慢性呼吸器疾患、糖尿病の4つ。



感染症の予防には、感染源(病原体)、感染経路、感受性者(免疫がなく感染しやすい人)への対策が必要です。そのためには、個人の努力のみならず、上下水道の整備、消毒、検疫、患者の隔離、予防接種等の社会環境の整備が不可欠です。これに対し、慢性疾患の多くは個人の生活習慣が大きく関わるため、生活習慣の改善によってかなり予防することができます。

WHO(世界保健機関)が加盟国を国民総所得(GNI)別に分け、それぞれの死因についてまとめた統計によると、低所得国では肺炎などの呼吸器感染症、下痢性疾患、エイズ、結核、マラリア等の感染症が死因の上位を占めています。他方、低所得国に比べて高所得国での死因の上位は心臓病、脳卒中、認知症、がんなどのNCDが占め、感染症では唯一、呼吸器感染症が上位にあります(図5)。全世界で見ると、3人に2人がNCDで死亡しており、高所得国では死因の88%、低所得国でも37%をNCDが占める※10ことから、感染症に加え、NCDに対する取り組みの必要性が高まっています。



現代の私たちの日本社会におけるもうひとつの課題に壮年期(25~44歳)の自殺があります。2012年の自殺者は1997年以来15年ぶりに3万人を下回り、以降減少を続けているものの、20~30歳代の死因の第1位が自殺であり※11、背景となるうつ病の増加がクローズアップされています※12。このため、近年、メンタルヘルスや睡眠も予防医療の新たなテーマとなっています。


平均寿命と健康寿命の差

日常生活に制限なく健康的に過ごせる生涯の期間を健康寿命と呼んでいますが、2013年の調査によると、日本人の健康寿命は男性71.19歳、女性74.21歳でした。2015年の平均寿命は男性80.75歳、女性86.99歳で、平均寿命との差は男性で9年以上、女性では12年以上に及んでいます(図6)※13



健康寿命を縮める原因は、認知症、脳卒中、関節疾患及び骨折・転倒など※4で、これらの原因による要介護状態を防ぐ「介護予防」が健康寿命を延ばすためには必須であると認識されるようになりました。適切な予防医療の推進・普及により、こうした健康寿命短縮の原因を一定程度抑えることが可能になると考えられます。

内閣府の世論調査で、貯蓄や投資など「将来に備える」か、「毎日の生活を楽しむ」かの生活者意識を年齢別に見ると、40歳代までは「将来に備える」派が多数ですが、50歳代では「毎日の生活を楽しむ」派の方が多くなり、60歳代ではおよそ8割を占めています(図7)※14。毎日を楽しみ、QOL(生活の質)を高めようとする、まさにそのときに、QOLを損なうのが認知症や脳卒中、骨折などであり、これらの原因を防ぐ予防医療へのニーズはこれまでになく高まっていると考えられます。



  1. 辻一郎 「高齢者と健康」、『NEW予防医学・公衆衛生学 改定第3版』(南江堂、2012年)
  2. 東京都総務局統計部 東京都の統計