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愛知県東郷町

健康寿命延伸のカギは幼児期にあり! 将来の生活習慣病予防に向けた「幼児期からの運動習慣づくり」

平均寿命が愛知県内でもトップレベルを誇る愛知県愛知郡東郷町では、健康寿命の延伸に向けて町全体で健康づくりに取り組んでいます。特に注目を集めているのが、町の未来を担う子どもたちへの運動促進事業です。町内の保育園に通う4、5歳児を対象に「運動あそび」と名づけた運動プログラムを日々の保育に取り入れており、子どもたちの運動能力向上や予期せぬケガの減少のほか、運動好きの子どもの増加、集中力アップといった成果につながっています。「子どもが健康で元気になれば、50年、60年先も東郷町が元気に活力ある町であり続ける」という理念の下、平成24年度から事業を継続してきた東郷町役場福祉部こども課の指導保育士、清水昌江さんにお話を伺いました。


子どもが高齢になったときのことを考え、幼児期からの健康づくりに着手!

愛知県名古屋市と豊田市の間に位置する愛知郡東郷町は、大都市近郊型のベッドタウンとして発展してきました。合計特殊出生率は国平均より高い“多子の町”であり、「子育て支援ナンバーワン」の町づくりを目標に、18歳までの子ども医療費助成制度による自己負担分無料化や、全小学校区に放課後子ども教室と放課後児童クラブを設置するなど、さまざまな施策を展開しています。また、不妊治療費助成制度に加え、平成25年度からは県内で初めて不育症治療費助成制度を開始し、子どもを望むご夫婦の経済的負担の軽減を図って妊娠・出産をサポートしています。

*合計特殊出生率:「15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの」で、一人の女性がその年齢別出生率で一生の間に生むとしたときの子どもの数に相当する。

一方、東郷町は平均寿命が男女とも県内トップクラスの“長寿の町”でもありますが、残念ながら平均寿命と健康寿命とは約10年の差が開いています。町民の健康寿命を延ばして人生の最期まで健康に過ごすために、「子どもが健康で元気になれば50年60年先も東郷町が元気に活力ある町であり続ける」という構想を掲げ、健康づくりを進めてきました。

中年期以降の成人をターゲットにした健康づくり対策が主流の中、あえて「子ども」を対象にした背景には、“健康寿命の延伸の基盤は幼児期”との考え方があります。幼児期は神経機能の発達が著しく、5歳頃までに大人の約8割程度まで発達するといわれています。幼児期に運動あそびを中心とする身体活動を十分に行うことは、体力・運動能力の発達とともに、運動習慣を身につけることで健康的な生活習慣が形成され、将来の生活習慣病予防や介護予防などに役立つと考えられているのです。

近年、生活環境の変化により遊び場や遊ぶ時間が縮小し、子どもが体を動かす機会は激減しています。ここ東郷町の保育園からも、園児の体力低下や何もないところで転んで骨折するといった予期せぬケガの増加を心配する声が上がっており、危機感を募らせていました。
加えて保育園児は基本的に共働き家庭のお子さんであり、保護者が子どもと一緒に遊ぶ時間を確保しにくいという事情もあります。保育園での活動が唯一の運動機会になっている家庭もあると考えられるため、保育時間中に体を動かす時間を確保する必要があると考えました。


*東郷町施設サービス株式会社


その一方で、これまで東郷町では幼児期の具体的な運動指針がなく、保育士が専門的な指導者からの運動指導を受ける機会もありませんでした。そこで「まずは自分たちが、子どもたちへの運動指導の進め方や技術などを学びたい」という声が現場の保育士から寄せられました。その要望をきっかけに、平成23年に町のこども課から東郷町100%出資の東郷町施設サービス株式会社(以下、TIS)に依頼し、保育士向けの研修を実施することになったのです。


遊びながら運動能力を高める「運動あそび」を保育園に導入

TISでは公共施設の管理運営のほか、高齢者向けの介護予防教室やトレーニングジム、子ども向けの運動教室など、地域住民に向けた健康事業を行っており、その中で「コーディネーショントレーニング」の考え方を基につくられた運動プログラムを提供しています。コーディネーショントレーニングとは、例えば鉄棒ならすぐに前回りをさせるのではなく、まず鉄棒をしっかり握れるよう友だちと引っ張りっこをしたり、二人で手をつないで転がったりするなどの遊びからスタートするなど、運動に遊びの要素を取り入れて脳・神経系に刺激を与え、身体各部位をなめらかに効率よく動かし運動能力を高めていく方法です。研修に参加した保育士たちもコーディネーショントレーニングの要素を取り入れた運動あそびを経験、「これなら運動が苦手な子どもでも楽しく体を動かすことができる」「ぜひ子どもたちにも教えたい」と感じたことから、平成24年度に4、5歳児を対象にTISによる運動あそびの指導事業を開始しました。同年11月からは、文部科学省の「幼児期の運動促進に関する普及啓発事業」を受託し、幼児期運動指針を有効活用しながら、年中児と年長児を対象に運動あそびタイムを設定、親子体操、保育士研修等を中心に幼児期運動促進事業を進め、翌25年度も同事業を受託しました。26年度から27年度は、「幼児期の運動に関する指導参考資料作成事業」として、引き続き幼児期運動指針の活用と幼児期運動促進事業を推進してきました(※27年度は、スポーツ庁事業)。

子どもたちへの運動指導「運動あそびタイム」は、隔月で年6回、1回45分間、TISの運動指導士が各園に出向いて行います。指導する運動プログラムは、TISと順天堂大学スポーツ健康科学部(以下、順天堂大)の共同で作成されました。プログラムは「心地よさ」「多様な動きづくり」「コミュニケーション」に重点を置いて考案されています。マットや跳び箱、鉄棒など用具を用いた運動のほか、「シュッ、シュッ」と忍者のように手裏剣を投げる動作を繰り返して移動しながら、他の子どもとぶつからないようにすれ違ったり、手拍子に合わせて「ケン、ケン、パ」をしながら歩いたり、合図と同時に片足立ちをしたりと、遊びながらリズム感やバランス感覚、環境と自分との関係を把握したり、身体の各部位を調節して、なめらかに効率よく動かしたりするコーディネーション能力が向上するように、子どもたちが夢中になれる動きを取り入れています。

併せてTISによる保育士向けの研修も継続し、保育士自身が子どもたちに指導できるようスキルアップを図っています。さらに保育士たちは、TISの研修とは別に自主的な勉強会を立ち上げ、本事業開始当初から研鑚を積んできています。TISによる子どもたちへの直接指導は年6回のみですが、それ以外の毎日の保育の中でもちょっとした時間を利用して、各園で工夫した運動あそびを積極的に取り入れるようにしています。例えば、園庭で遊んだあと、キリンやペンギンの真似をした歩き方で保育室に戻る、園庭に出るときは新聞紙でつくったボールをかごにめがけて投げ、入ったら出ていくなど、研修や勉強会で学んだことを生かし、習慣化につなげていきました。

また、町役場のこども課、TIS、順天堂大の3者による「幼児期の運動指針会議」を年3回開催、運動あそびタイムや各園で行っている運動あそびの内容を報告し、順天堂大よりアドバイスを受けて指導内容を改良するなど、取り組みの共有とレベルアップを図っています。さらに順天堂からは運動能力測定やライフコーダによる身体活動量測定、筋厚測定などのデータを活用した科学的な分析やフィードバックをいただいています。今後の研究が進めば幼児期の活動量と筋肉量の関係性など、より大きな知見に基づいたアプローチが可能になるかもしれません。


体を動かす楽しさや心地よさを体感した子どもたち! 果たしてその成果は……