社会にひろげる予防医療!

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病気を防ぐために、その病気を発症する危険性(リスク)の高いグループを特定して、リスクを減らす対策を講じることを高リスク・アプローチと呼んでいます。例えば、高血圧の患者さんが医師の指導のもとで薬を正しく服用し、脳卒中の発症リスクを下げることは、有効な高リスク・アプローチです。ところが、実際に脳卒中を発症する人は、高血圧の診断基準を満たす高リスクグループからよりも、血圧がやや高めの境界域グループからのほうが多いことが知られています。脳卒中の発症率は高リスクグループのほうが高いのですが、分母となる人数が境界域グループのほうが圧倒的に多いためです(図8)※15


血圧分布と脳卒中の発症率および発症数

このことは、予防医療のパラドクス(Preventive Paradox)と呼ばれ、予防医療に別のアプローチが必要な理由とされています。私たちは健康上のリスクが明らかになったとき、病気の予防を強く意識しはじめますが、実はその手前で小さなリスクを抱えているものです。境界域高血圧もその例ですが、私たちの誰もが小さなリスクをもっているという認識にもとづき、全員でそのリスクを減らし、健康水準を引き上げる努力をすることを集団アプローチと呼んでいます。WHOの推計によれば、私たちが生活習慣の4つのリスク(喫煙、不健康な食事、運動不足、過度の飲酒)を改善すれば、心臓病、脳卒中、2型糖尿病の80%は予防できると推測されています※16。

また、国立がん研究センターの報告によれば、5つの健康習慣(禁煙、節酒、減塩、運動、適正体重)のうち0~1個しか実践していないグループのがんのリスクを1とした場合、2個、3個、4個、5個実践しているグループのリスクは男女とも直線的に低下し、平均すると、1個実践するごとに男性で14%、女性で9%低下することが示されています(図9)※17


5つの健康習慣とがんのリスク

高リスク・アプローチは、健康診断などでリスクの高いグループを見いだし、保健指導や早期発見・早期治療につなげるという2次予防重視の考え方ですが、集団アプローチは私たち一人ひとりがみずから積極的に生活習慣を改善することで1次予防、さらには健康増進(Health Promotion)をもたらそうという考え方です。これからの予防医療には、この2つのアプローチを効果的に組み合わせることが重要です。